平成30年2月28日、コミュニティ五番街は、顧問弁護士を代理人として、家庭裁判所に「相続財産の管理人の選任」の申立てを行いました。これは、所有者だった故人に管理費等の滞納があったため、これを相続した相続人を調査し請求を行おうとしたところ、相続人がいない(不存在)ということが分かり、管理費等の回収策として実行したものです。
これを機に、相続人の不存在が生じた場合、どのような経過をたどり処理されるのか、民法の該当条文を確認しながら学習し、その対策を考えたいと思います。
確認の結果、相続人のあることが明らかでない場合、相続財産は法人となります(第951条)。相続人のあることは明らかだが所在等が明
らかでないときには、相続人の不存在とはならず、「不在者の財産の管理」に関する規定(第25条〜29条)により取扱われます。
相続人の確認には、被相続人が生まれた時からの戸籍を、その該当する本籍地の市区町村役場から取り寄せることになりますが、戸籍簿に基づく除籍謄本・改製原戸籍謄本・戸籍の全部事項証明書などかなり広範囲になり苦労します。
戸籍謄本等が揃えば、その記載事項を確認します。相続人の記載が全くない場合や記載があっても相続欠格者(第891条)か廃除処分者(第892,893条)であったり、家庭裁判所で相続放棄(第938条)がなされていたり、被相続人と同時死亡の推定(第32条の2)を受けたりしていることが確認されると「相続人の不存在」となります。
相続人の不存在となった場合は、相続財産を「法人」に擬制して、遺産が所有者のいない財産(第239条)として取り扱われないよう、相続人を捜索し相続財産の管理・清算を行う管理人(法人の代理人)について職務権限などを規定しています。
「全財産をXに包括遺贈する」旨の遺言があるときは、受遺者Xは、包括受遺者として、相続人と同一の権利義務を有する(第990条)とされており、この場合は「相続人の不存在」には当たらないとする判例(最判H9.9.12)があります。
しかし、相続財産の権利義務以外の法律関係もあること、受遺者の権利は相続債権者よりも劣後すること、後記の相続財産の管理人の選任の請求においては、利害関係人に包括受遺者も含まれるとされていること、清算手続きにおいて相続財産の状況報告(第954条)や清算手続き(第957条)が必要であることなどにより、相続財産管理人による管理・清算が必要になる場合もあると思われます。
包括受遺者の権利義務は、相続財産についてのもので、その他の法律行為には及ばないとされているからです。相続財産の管理・清算を行う「相続財産の管理人」は、家庭裁判所に対して利害関係人または検察官の請求により選任されます。
家庭裁判所は管理人を選任したときは、裁判所内の掲示板へ掲示し、かつ官報に掲載し公告します(第952条)。
相続財産に対し、法律上の利害関係を有する者とされ、遺言による包括受遺者・特定受遺者、相続債権者、相続財産の担保権者、生計同一の者(内縁の配偶者、事実上の養子など)、療養看護に努めた者その他の特別縁故者で家庭裁判所が判定した人です。検察官も利害関係人になります。
(遺言執行者との関係)遺言執行者が遺言により指定され、または家庭裁判所の審判で選任されている場合、遺贈財産以外の相続財産につき、相続財産管理人が選任されているとき、受遺者の権利は相続債権者に劣後するので、遺言執行者の職務は、相続財産管理人の清算事務終了まで停止するとの審判例(東京家裁審判)があります。
家庭裁判所で相続財産管理人の選任の公告後、2カ月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産管理人は、すべての相続債権者および受遺者に対し、2カ月以上の期間を定めてその期間内に請求の申出をすべき旨(申し出ないときは除斥)を官報等で公告し、知れたる債権者、受遺者には催促して弁済を行います(第957条)。
コミュニティ五番街は、この時期に顧問弁護士と相談しながら、先取特権(区分所有法第7条)である管理費等を相続財産管理人に請求することになります。
相続債権者等の請求期間満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産管理人または検察官の請求により、相続人があるならば一定期間(請求期間は6カ月以上)内にその権利を主張すべき旨を公告し相続人を捜索します(第958条)。 この期間内に権利を主張する者がないときは、その後は、相続人、相続債権者および受遺者は、その権利がなくなります(第958条の2)。
相続人の不存在が確定した後、家庭裁判所は、被相続人と生計を一にしていた者、療養看護に努めた者その他被相続人と特別な縁故があった者の請求(請求期間は3カ月以内)によって、相続財産の全部または一部を分与します。(第958条の3)。
天涯孤独の場合や法定相続人がいる場合でも、欠格・廃除・相続放棄があったときは、その対策が講じられていないと、前述のような煩雑な作業・時間と費用がかかります。 最低限の財産承継策として「遺言書の作成」や「養子縁組」「任意後見制度」「家族信託(民事信託)」などは検討しておきたいものです。